QCラボ:フォールした後はロープを休ませるべきか?

2016.9.7

この「QCラボ」は、クライミングギアについて最もよく聞かれる質問に答えることを目的としている。今回は、フォールとフォールの間にロープを休ませるべきか?についてである。


ブラックダイヤモンドのギアはすべて、店頭に並ぶ前の数か月、時には数年かけて、品質管理責任者であるコリン・ポーウィック(KP)*と直属の品質保証エンジニアチームによる厳しいテストをくぐり抜けている。KPと彼のチームは、実験室とフィールドの両方で広範かつ綿密なテストを行うことで、BDのギアが十分な耐久性、信頼性、強度を持っており、山や岩場での使用に耐えられることを確かめているのである。

*2016年当時。現在はクライミングカテゴリーディレクター。

数週間前、地元のスポーツクライミングジムでリードしていると、クライミング仲間の一人がやってきて「技術的で科学的で工学的な類の質問」をしても構わないか、と私に尋ねてきた。彼は、「プロジェクト」にトライしているときに、なぜフォールするごとに段々と身体への衝撃が増加していくのか、その理由を知りたがっていた。私は『Freedom of the Hills』(北米で出版され広く読まれている、登山・クライミング全般について書かれたスタンダードな技術書:訳注)に出てくる古い金言について触れ、多くのクライミング雑誌で「激しいフォールの後にはロープを”休息”させる、もしくは核心ムーブを再トライする前にロープの末端を入れ替える」と書かれていることを話した。もちろん、これはフォールの衝撃によってかかる負荷を減らすためだ。これは、プロテクションがあまり強固でない時にはとりわけ重要である。ロープは、その伸長する性質によって、このシステムの中で最もフォールの衝撃を吸収してくれる道具である。そして、ゴムひもを引き延ばしたときと同じように、荷重後は緩むための時間を置く必要がある。そうすることによって、次に荷重されたとき最大限のエネルギーを吸収することができるのだ。友人は、私が何を言っているのかよく分からないと言いたそうな面持ちで私を見つめていた。

彼は質問を続けた。腹部への衝撃を減らすために他にできることはないか?ギアにかかる負荷を最小限にするには?私がしたもっともらしい回答は、フォールしないこと、だ。墜落しなければ荷重もされない。しかし、実際に重要なのは以下のようなことだ。しっかりダイナミックビレイをすること。伸長率の高いロープを使うこと。フォールした後に少しだけロープの結び目を緩めること(フォール時に結び目がぎゅっと締まることでエネルギーを吸収するため)。トライ間はロープを休ませること。ナイロン製のスリングかクイックドローを使用すること(伸縮しないスペクトラ製・ダイニーマ製よりも少しだけ多くエネルギーを吸収してくれるため)。

その効果を具体的に計測しようと、私と品質保証エンジニア数名は簡単な実験計画を立て、とある午後、社内のドロップタワー=落下実験塔に向かった。以下の条件下において、一番上にあるプロテクションにかかる負荷がどの程度変化するかを計測することにした。

  • 同じロープを使って、できるだけ早く連続で落下を行う
  • 落下と落下の間でロープを30分間休ませる
  • 落下と落下の間に結び目を緩める
  • 落下と落下の間でロープを2時間休ませる
  • 落下と落下の間でロープを丸一日休ませる
落下前と落下後の図

いつもの免責事項:これは本格的な博士レベルの論文を目指しているわけではない。ちょっとした科学実験にすぎない。当たり前だが、この議論を発展させるためにできることはまだまだたくさんある。この限られたデータセットと1ページの要約は、クライマー諸氏に考える材料を与えるためのものである。以上。

実験装置:

  • BD社のドロップタワー(UIAA基準非適合)
  • 固い鉄塊 80kg
  • スタティックビレイシステム(このシステムは重要である。非現実的であるものの、条件を一定にすることでわれわれが関心のある変数のみに注目できるからだ。)
  • 新品の10.5mmロープ
  • クイックドロー代わりのチェーン
  • 典型的なリード状態でのフォールを想定したセット
  • 落下係数:0.26

基本実験(落下と落下の間、ロープを5分間休ませる)

  • 上述の実験装置にあるロープの一部分を使って、鉄塊を落下させ、最上部のギアにかかる荷重を記録した。
  • その後、鉄塊をもとの高さまで持ち上げ、5分後に再び落下させた。
  • これを10回行った。

落下と落下の間に結び目を緩ませる場合

  • この実験ではかなり激しい負荷がかかるため、ロープの結び目を簡単にほどくことができないことが分かった。そのため、鉄塊を結ぶエイトノットの中にカラビナを差し込むことにした。これにより、落下後に簡単に結び目をほどくことができるようになった。
  • 上述の実験と同様、落下後は鉄塊をもとの高さまで持ち上げ、5分後に再び落下させた。
  • これを10回繰り返した。

落下と落下の間でロープを30分間休ませる場合

  • 基本実験と同様の実験を行った。ただし、落下と落下の間、ロープを30分間休ませた。
  • これを10回繰り返した。

落下と落下の間でロープを2時間休ませる場合

  • 基本実験と同様の実験を行った。ただし、落下と落下の間、ロープを2時間休ませた。
  • これを1回だけ繰り返した。

落下と落下の間でロープを丸一日休ませる場合

  • 基本実験と同様の実験を行った。ただし、落下と落下の間、ロープを丸一日休ませた。
  • これを1回だけ繰り返した。

結果

落下実験の結果
表「2回目の落下—休ませた時間による違い」

観測結果

  1. 予想通り、落下回数を重ねるごとにかかる負荷は増加した。
  2. 予想通り、最も負荷が増加したのは、1回目の落下から2回目の落下にかけてであった。
  3. 落下ごとに結び目を緩めると、負荷は僅かに減ったが、たいした違いは見られなかった。
  4. 落下後にロープを30分間休ませた場合、結び目を緩めた場合よりも負荷が減少した。しかしそれでも、たいした効果はなかった。
  5. 予想通り、落下後にロープを2時間休ませた場合と24時間休ませた場合は、2回目の落下時、負荷が顕著に減少した。
  6. 落下後にロープを24時間休ませたとしても、2回目の落下による負荷は1回目の落下のそれに比べて11%多かった。

結論

落下の前に結び目を緩めたりロープを休ませたりすることで、一番上のギアが受ける衝撃を少しだけ減らすことができる。しかしながら、落下ごとにロープを取り替えたり、ロープの末端を入れ替えたりする方が、はるかに効果があるようだ。そしてもちろん、一番上のギアにかかる負荷を最小にする最良の方法は、まずもってフォールしないことである。上で述べた通り、これはちゃんとした研究でもなんでもなく、できるテストや実験はまだまだたくさんあるだろう。世界最高のクライミングギアを作るのに忙しくなければ、の話だが。たとえば、以下のようなものだ。

  • 「ロープが新品同様の状態まで緩むのにどれくらい時間がかかるだろうか?はたまた、そのような状態に戻ることはありうるのだろうか?」
  • 「スタティックビレイではなく、現実のビレイと同様にダイナミックビレイで実験を行った場合、どのような違いが見られるだろうか?」
  • 「もっと細いロープを使ってこれらすべての実験を行ったらどうなるだろうか?」
  • 「ダブルロープやツインロープを使用した場合はどうなるか?」
  • 「ロープがぬれている、または凍っている場合は?」
  • 「実際の墜落に近い状態であれば、結び目を緩めたりロープを休ませたりする効果はもっと大きくなるのだろうか?」

きっと、またいつかそのうち…

安全なクライミングを。

KP
(原文リンク)