GEAR MYTHS(ギアと通説):ギアスリングvsギアループ

2019.7.18

ギアスリングは、トライカムと同様に衰退する運命を辿りつつあるようだ。これには何か理由があるのだろうか?ハーネスに付いているきれいな樹脂成型のギアループの方が、やはり優れているのだろうか?それとも、今のクライミングシーンではそれぞれ使うべきタイミングと場所があるのだろうか?
今回の『ギア神話』では、一昔前は必需品だったギアスリングの衰退について調べた。また、ギアスリングとギアループそれぞれのメリット・デメリットについても意見を聞いてみた。今後ギアスリングが流行ることはあるのだろうか?それでは見てみよう…


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Andy Earl
Athlete:
Big Wall Paul
Location:
Southern Utah

タイラー・ウィルカットは、今ではブラックダイヤモンド(以下、BD)社のアスリートマネージャーだが、ずっと前はと言うと、端的に言えば、クライミングバムだった。話はここから始まる。ウィルカットは若く純真で野心を抱き、多くの初登を手中にしているクライマーだった。ルームメイトのジミー・ウェッブのソファに座りながら、彼は新しいスポンサーのBD社に初めての”プロフェッショナル”なメールを書いていた。

「コリン・ポーウィック様へ
ウィルカットです。今午前1:45頃ですが、とても素晴らしい新製品のアイディアを思いつきました」

若いウィルカットの熱意にケチをつける訳ではないが、クライミング部門のディレクターである”KP”が、この珠玉のようなメールを開いて目を白黒させただろうことは想像に難くない。しかし、その内容は天才としか思えないものだった。

ギアスリングにループを付け、各ループの色はキャメロットのカムローブやスリングの色と対応させるというのが彼のアイデアだ。とてもシンプルではないか。こうすればプロテクションをきちんと整理できる。黄キャメロット(2番)を黄色のループに、青キャメロット(3番)を青いループに…といった具合だ。

もっとも、真に発明の才が伺えるのは(BD社内では伝説のように語り継がれているのだが)、その名前である。

「それを”ウィルカット”と名付けます。なぜなら、それは時間を節約(カット=CUT)してくれるだろう(ウィル=WILL)からです。これ、意味分かりますよね?」

Sling
Photo:
Andy Earl

KPはウィルカットの駄洒落は理解できたものの、残念ながら製品化には至らなかった。

トライカムがそうであったように、ギアスリングの利用者は徐々に減少していると言える。今日では、ショルダーパッドが付いたBDギアスリングがギア収納部屋の壁に飾られているのを目にすることが多いかもしれない。それは、次のトリップまでの間ギアを掛けておくためだけに使われているのである。フィーニックス(5.13a)のフィンガークラックを攀じるクライマー、その筋骨隆々の肩に掛けられているのを目にすることの方が少ないだろう。

なぜKPがこの機会にデザインチームにウィルカットギアスリングの設計を命じなかったのかが分かるだろう。単純に需要がなかったのだ。

しかしなぜ?ギアスリング衰退の根本的な理由は何だろうか?

今回の『ギア神話』では、この疑問について調査を行い、現代のクライミングにおいて果たしてギアスリングの居場所はあるのかどうかを探る。もちろん家の倉庫のペグボードにぶら下げられる以外の居場所だ。そして現代のハーネスは岩場からギアスリングの居場所を奪ってしまったのかどうかを検証する。両者それぞれに異なる長所があるのだろうか?そしてこれが重要なのだが、大多数のクライマーはどちらをより好んで使っているのだろうか?それはなぜなのか?

ギアループ派の意見

我々は、この疑問を解き明かすため、BDチームのトップトラッドクライマー達に話を聞くことにした。

1人目はバブシ・ツァンガールだ。バブシはオーストリア出身のクライミングマシーン。2019年、『ナショナルジオグラフィック・アドベンチャー・オブ・ザ・イヤー』に輝いている。エルキャピタン、マジックマッシュルーム(5.14a)の第二登をはじめとして、プリンジップ・ホッフナン(5.14R)の第三登、エルニーニョ(5.13c)、ゾディアック(5.13d)、プレミューア(5.13c)といった、ほとんど再登者のいないエルキャピタンのフリールートの再登など、いくつものハードトラッドルートを手中に収めている。このような豊富なビッグウォールの経験を基に、彼女は我々の問いについて熟考してくれた。ギアスリングか?ハーネスのギアループか?

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Francois Lebeau
Athlete:
Babsi Zangerl
Location:
Magic Mushroom (VI 5.14a), Yosemite

「私はギアループを好んで使っています。ハーネスの横にギアがある方が邪魔にならないからです。ギアスリングを使うと、ギアが胸のあたりで揺れ動いて邪魔なんです」

バブシは、基本的に胸の周りに何かがぶら下がっている感じがあまり好きではない、と説明した後、以下のように付け加えた。

「プリンツィプ・ホフヌングをトライするときは、ギアスリングを使用しました。オーストリアにあるこのルートは、長くハードなトラッドルートです。ギアスリングのおかげでプロテクションが整理でき、使う順番を間違えずに取り出しやすくなりました。このようなクライミングでは、常に正しい順番で次のギアがギアスリングに並んでいる必要があります。ギアスリングであれば、プロテクションを取る手が左手になろうが右手になろうが関係ありません。プリンツィプでは、プロテクションセットがかなりシビアで、マイクロナッツをセットするのにとても苦労しました。マイクロナッツはどれも似ているので、ハーネスのギアループの中でごちゃ混ぜになり、探すのに時間がかかることを避けたかったのです。このルートは50mもあるので、たくさんのギアが必要でした。このような場合、ギアスリングはベターな選択でしたね」

しかしバブシにとってこれは特別なケースだ。彼女は「いつもはハーネスのギアループを使っています」とのことだった。

「クライミング中は動きやすい方がずっといいです。ぶら下がって邪魔するものはない方がいいんです!」

これには納得。Rのつく恐ろしいルートにトライし、大量のマイクロナッツを連続で使用するようなことがない限り、バブシは根っからのギアループ派なのだ。

では、トラッドスター、ヘイゼル・フィンドレイの場合は?ヘイゼルは、我々が補助輪付き自転車に乗っているような年頃から、グリットストーンでのプロテクションセットを学び始めた。しかも彼女はイギリス人なのだ。だから何か参考になる意見をくれるだろうと我々は考えた。

Photo:
Andy Earl
Athlete:
Hazel Findlay
Location:
Southern Utah

「既にハーネスがあるのだから、他にラッキングの選択肢はいりません」と、ヘイゼルはずけずけと言った。

「ギアスリングが自分の周りで揺れている感じや、常に片方の肩にぶら下がっているのが嫌なんです」とも。

Photos:
Andy Earl
Athlete:
Hazel Findlay
Location:
Southern Utah

しかしヘイゼル。ギアスリングの長所もあるのでは?

「ハーネスのギアループと併用すれば、ギアスリングをもっと有効に使えると思います。ギアスリングは体の片側から反対側に移動できますし、ビレイポイントで簡単にパートナーに渡すこともできますね」

とは認めたものの「ハーネスのギアループだけ使えば、自ずとプロテクションを少なくせざるを得ませんよ!」とも指摘した。

…真のイギリス人である。また、彼女はこうも付け加えた。

「超オールドスクールクライマーに見られたいというのでもなければ、ギアスリングがない方が真っ当に見えますよ」

おっと。

OK、ヘイゼルがどちら側の立場なのかは分かった。おそらく彼女が正しいのかもしれないけど、古参クライマーにも話を聞くべきだろう。スワミベルトとパッシブプロテクションを身に着け、EBシューズと白いペインターパンツを履いてGNAR(5.11)を登っていた時代を懐かしんでいるような、屈強なクライマー。実際は、そこまで時代を遡る必要はないかもしれないが…。しかし確かに、ギアスリングは一昔前まで、多くのクライマーに愛用されていたのである。

ギアスリング派の主張

我々は、ダグ・シャボットに話を聞いた。彼はベテランのハードクライマーで、アルピニストであり、タフなモンタナ人である。骨まで凍るような冬の朝、貴方が一杯目のコーヒーをすすっている間に、WI5のアイスを3ピッチ登ってしまうような男である。

「トラッドルートを登るときは、ギアスリングを愛用しています。しかし私のようなクライマーは少数派で、どんどん少なくなっているように思います」とダグは認める。「ハーネスのギアループだけを使ってみようと色々な機会に試みたこともありますが、いつもイライラしてしまいますよ」

彼の中でなぜギアスリングの栄光が終わらず続いているのか、主な理由は2つあると彼は言った。

「一つめの理由は、ギアスリングを使うことによって、自分がどの方向を向いているか、どちらの手がギアやジャミングでふさがっているかに関係なく、全てのギアラックに手が届くからです。私は身体が柔らかくないので、右手を高い位置にあるクラックに突っ込んでしまうと、自分の右後ろのギアループに付いているものに手が届かなくなってしまいます」

「二つ目の理由は、ギアスリングは容易に動かすことができるからです。チムニーやワイドクラックを登っているとき、必要に応じて自分の体の片側や前側に動かせるのです」

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Kolin Powick
Athlete:
Doug Chabot
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Montana ice

なるほど!この理由には他の人にも当てはまるキーワードが潜んでいるようだ。”ワイドクラック”、”チムニー”、”ギアでふさがった手”といった、僅かだが非常に重要なワードに気づいただろうか?どうもダグが好むクライミングスタイルこそが、ギアスリングをいまだに愛用する根本的な理由のようだ。

彼はまた、マルチピッチでリードを交代する際には不可欠、とも指摘した。

「もしもハーネスしかなかったら、ギアを全部渡すのに時間がかかりすぎてしまうでしょう」

さらにヘイゼルの”真っ当でない”とのコメントに対して、ダグはこう言い返す。

「ギアがきちんと整理されてスリングに掛かっている様子はとても格好良く見えます。もしもそれらのギアをハーネスに掛けたら、骨董市みたいになってしまいます。細引きやタイブロック、PASなどがごちゃ混ぜになってしまうからです。速く、すっきりしていて、パートナーに渡しやすく、どんなクライミングのシチュエーションでも使用可能なのは、ギアスリングでしょう」

確かに!

ダグのリードをフォローするために(ダジャレです)、我々はさらに他のアルピニストにも話を聞いた。年々増える多数派のクライマー、つまりスポートクライマーや現代のトラッドスター達の間でのみギアスリングは衰退しつつあるということ、そして、”苦しみの技術”すなわちアルピニズムの衰退がギアスリング利用の減少と直接相関があることを確かめたいと考えたのだ。

アルパインの苦行を全く恐れないイギリス人アルピニスト、マット・ヘルリカーはすぐにこれに同意した。

「夏の間はハーネスにギアをラッキングします。しかし、冬はギアスリングを愛用します。通常、私はすぐに取り出せるように、ナッツ類、クイックドロー、冬山用のヘキセントリックのような長めのギアをギアスリングにラッキングします。パンプしていたり必要なギアをすぐに見つけられない状況で、使えなかったギアを素早く戻したい時に有効です。また、ギアスリングであれば、トリッキーな状況に出くわしたときに必要なプロテクションをくまなく探すことができます」

山に魅せられてイギリスからシャモニーに移住したアルピニスト、ジョン・ブレイシーは、こう付け加える。

「アルパインクライミングでは分厚いウェアを着た上にたくさんのギアをラッキングする必要があるので、いつもギアループに加えてギアスリングを使っています」とブレイシーは言う。

「ストッパーとカム類をギアスリングに、クイックドローをギアループに掛けるのが、私の定番スタイルです」

ところがアルパインでの定石と異なり、ロッククライミングをする場合はギアループを使用する、とブレイシーは述べる。その方がギアがムーブの邪魔にならないし、簡単にギアを取り出せるからだ。

ギアスリング人口の減少は、オールドスクールな登山スタイル、つまりはワイドクラックやチムニーや積雪期登山を好むクライマーの減少と相関がある、と言えるだろうか?

結論

我々は、この現象を誰よりも間近で見てきたある人物に相談した。その人物とは、BD社のクライミング部門のディレクターである、コリン・”KP”・ポーウィックその人である。

クライミングギアの栄枯盛衰を見てきたKPによると、ギアスリングの衰退にはいくつかの理由があるという。

「私がクライミングを始めた当時、当たり前のようにギアスリングを使っていました」と彼は言う。「90年代初頭、カナディアンロッキーでのトラッドクライミングが、私の最初のクライミングでした」

「それから間もなく、確か私がソルトレークシティーに引っ越した2000年頃でしょうか、皆ギアをハーネスにラッキングするようになりました」

KPによると、理由の一つは、純粋なトレンドだ。ヘイゼルがほのめかしていたように、ハーネスにラッキングする方が”今っぽい”やり方になった。しかしながら、実用的な面での理由もある、と彼は考えている。

「ギアがどんどん軽量化し、ハーネスによりたくさんのギアを取り付けられるようになりました。そしてギアスリングはとりわけ傾斜の強いルートを登る場合、クライマーを後ろに引っ張り、体の周りで揺れ動く非効率な道具となってしまったのです」

またKPは、ハーネスのギアループは初期モデルから改良が加えられてきた、と重要な事柄を付け加えた。

「BDのハーネスについて言えば、現在のギアループは樹脂成形により変形しないようになっています。初期のウェビングのギアループは、ギアを詰め込むと”V”の字になってギアが1か所に固まってしまいましたが、現在のギアループではそうなりません」

では現代のハーネスがあるなら、KPもギアスリング派からギアループ派に変わったのでは?

「私は大の整理整頓フリークです。このギアは右前のギアループ、このギアは右後ろ、左前、左後ろ…、と整理します。きちんと仕分けされている状態が好きなのです。なので、ギアスリング派からギアループ派にシフトしました」

一方でKPは、ギアスリングが有用な時と場合もある、とも言う。特に長いマルチピッチルートを登るときは「ギアスリングがあった方が、各ビレイポイントでギアを渡しやすい」。

先ほどの気難しいアルピニスト達は、戦略的な理由があってギアスリングを使っている、とKPは考えている。しかし一方で、「老いたる犬に新しい芸を教えることはできない」とも述べる。

最後に一つだけ疑問が残っている。KPは自分のことを整理整頓”フリーク”だと言っていた。それならなぜ、”ウィルカット”を商品化するチャンスに飛びつかなったのだろうか?”ウィルカット”はまさに理想的なギアスリングの特徴を備えていたのに。

「ええと、先ほどの発言を思い出しましょう」と、KP。「私はいつも、ただの一重の輪っかのスリングではなく、ループで区分けされたギアスリングを使っていました。なので、本質的には、その区分けのためのループを、ギアスリングからハーネスに移し替えただけなのです」

「しかし」と、彼は続ける。「”ウィルカット”は興味深い製品です。というのも、それはルートを登るためというよりは、地面でギアを整理するためのギアスリングだからです」

「よく聞いてください」彼は要約し始めた。

「一つ目には、直近数年間のギアスリングの売上推移を追ってみれば、それが着々と減少しているのが分かるでしょう。なぜなら、私が先ほど言ったように、人々は以前よりギアスリングを使わなくなっている、と考えられるからです。そのため、ウィルカットギアスリングが、そのバージョンアップに要するコストを補うほどの売れ行きを見せるとは思えないのです。しかも、通常のギアスリングよりも複雑な構造になるため、小売価格はやや高くなるでしょう。二つ目には、地面でギアの整理をするためにこれにお金を払う人はそう多くはない、と考えたからです。もちろん中には”ウィルカット”をクライミングに使う人もいるでしょう。しかしそのような人は、一つ目の理由で述べた通りどんどん減少しています」

「これが、我々が”ウィルカット”を作らなかった理由です…今のところは」

もちろん、この問題についてのKPの最終結論を聞いた後、タイラー・ウィルカットにコメントを求めた。すると、彼はこう返答した。

「今のところ、ということはまだチャンスがあるということだよね?」

Photos:
Andy Earl
Athlete:
Tyler Willcutt

-- 文:BDコンテンツマネージャ- クリス・パーカー
(原文リンク)


コラム

笹倉孝昭(山岳ガイド)

この記事を読んで、わたし自身のギアスリングに関する実際の利用頻度について思い返してみた。わたしは今でもトラッドルートではギアスリングを使うことが多い。多いというのは、ルートによっては使わないこともあるからだ。使う理由のひとつは持ち運びが楽なこと、記事にあるように受け渡ししやすいことだ。

ただし、以前はアイスクライミングでもギアスリングを使っていたが、現在は使わなくなった。これはアイスクリッパーのような製品が出てきたこともあるし、スクリューはカムディバイスほど嵩張らないこともある。またアイススクリューを含めてアイスツールのすべてが大幅にアップデートされたことも大きいと思う。記事にも書かれているが、ルートの特徴(傾斜、クラックのサイズなど)によってはギアスリングが便利な場面はまだまだあるだろう。それにしても、ここで紹介されている「ウィルカット」ほど細かな分類をする必要があるかどうかというとそれはわからない。しかし、カラーリングされてなくてもマルチループのほうが使いやすいと思う。(そのような製品はすでに市場にあるが…)

文中に「今っぽいやり方」という表現があるが、これこそが製品化の動機付けになる要素ではなかろうか。いつの時代も登っている人たちのスタイルやトレンドが製品を生み出していることに変わりは無い。かつて1990年代前半のビッグウォールクライマーの間ではFish社のダブルギアスリングが流行っていた。バックパックのショルダーハーネスのようなパッドに左右2本ずつ合計4本のスリングがついているものだった。当時はそれが「今っぽい」やりかただった。

もちろん今はクライミングスタイルも方法も何もかもが進んでいて、変化している。何にしても、ギアスリングというアクセサリーに分類されるギアについて、ここまで多くのクライマーにインタビューし、大真面目に検証するという遊び心がクライマーらしいことだなと感じた。

保科雅則(ロストアロー・スタッフ)

「スワミベルトとパッシブ・プロテクションを身に着け、EBシューズと白いペインターパンツ」これを読んで即座に思い浮かんだ姿が “ヘンリー・バーバー” だ。ヘンリー・バーバーはアメリカ東部のシャワンガンクスで腕を磨き、1970年代に活躍した伝説のクライマーである。私も写真でしかその姿を知らないが、まさしく白い大きめパンツにパッシブ・プロテクション、トレードマークのハンチング帽を被り素足のクライミング。世界中の岩場を巡り新ルートを拓いてまわった。

1998年、彼が45才のとき来日して(残念ながらわたしは見学できなかったが)小川山のクレイジージャムとカサブランカをヘキセントリックとナッツだけで見事オンサイトをしたのは、今でも知る人ぞ知るの語り草となっている。きっとそのときカムやナッツは、肩から掛けたギアスリングに収まっていたに違いない。彼こそはギアスリング派の代表格であろう。

1970年〜80年代前半は、今から見たらそんな「野暮ったい格好」がむしろクライマーの憧れと感じていたのは私だけではないはずだ。平山ユージ氏の師匠だった檜谷清氏もヘンリー・バーバーを意識していたに違いない。柔道着の白いパンツにハンチング帽、素足でのクライミングそしてシュイナード製のギアスリングがお決まりのスタイルだった。

さて現在、自分の周りの連中を思い出してみると、湯川でも瑞牆山でもギアスリングを使うクライマーをまだまだ多く見かける。わたし自身もクラックを登るときには何の疑いもなく、ごく当たり前の様にギアスリングを使っていたのだが、この記事のギアループ派の意見を聞くと「なるほど!」と納得してしまった。

「老いたる犬に新しい芸を教えることはできない」

そう言われてみれば確かに若いクライマーほど、カム類をハーネスのギアループに掛けて登っているような気がする…。