QCラボ:モンスターを飼いならす — 巨大カムの魅力と限界

2020.3.31

大きければ大きいほど良い。そうでしょ?…いやいや、事はそう単純ではありません。今回のQCラボでは、クオリティーエンジニアのハンター・ヴォズデックが徹底的に製品試験をして、新製品の特大カム — キャメロット#7・#8 — の長所と短所を調べあげました。


美女と野獣

新しく発売されたキャメロットC4の#7と#8は、今まで発売されたカムの中でも最大級の大きさです。C4の#5がまるでハンドサイズのカムに見えるほどです!これらの巨大カムを使えば、全身ヘトヘトに疲れ果てる砂漠のオフィズスや、エルキャピタンの途中に出てくるワイドピッチ等々、ぱっくりと開いた広いワイドクラックでもプロテクションを取ることができます。

今年、我々ブラックダイヤモンド(以下BD)は、これまでの製品の中で最も小さいカムと最も大きいカムを発表しました。マイクロサイズのZ4 #0と、大きな坊や達であるC4の#7と#8です。ぱっと見ただけでは、両者の間には何も共通点がないように見えるかもしれません。しかし、実はそうではありません。人はつい、カムのサイズで強度を判断してしまいます。小さな亀裂に突っ込んだギアよりも、ハンドサイズのカムでフォールまたはハンギングする方がより安全に思えます。あるサイズまでであれば、それは概ね正しいでしょう。しかし、特大サイズになると話は変わってきます。

今回のQCラボでは、C4の#7と#8、そしてZ4の#0について詳しく調べ、これらの類似点を分析します。なぜこの巨大カムの強度が意外にもマイクロカムの強度と同じくらいなのか、その理由をご説明しましょう。

Photos:
Andy Earl

定義

試験結果に飛びつく前に、まず、この記事で使われる専門用語の定義をいくつか確認しておきます。

破断強度

カムの破損が起きる荷重のこと。多くの場合、kN(キロニュートン)単位で表示されます(1kNは約102kgf(重量キログラム))。各カムのレンジに基づいて決められたサイズの“クラック”を再現し、徐々にカムに荷重していく方法で試験します。カム ― 公式用語では「フリクションデバイス」― は、EUの安全性能基準(CE)を満たすために最低でも5kNの破断強度が求められます。

カムの絞り(%)とEN12276認証登山用具 — フリクショナル・アンカー —

ヨーロッパで販売される全ての個人用保護具(PPE)は、CE認証基準を満たす必要があります。器具のカテゴリごとに、EN規格に基づいた要件が定められています。カムの場合は、「EN12276 – フリクショナル・アンカー」の規格に適合する必要があります。要件には、マーク表記や取扱説明、使用方法など様々な項目が含まれますが、ここでは破断強度に関する要件に着目しておきます。カムが認証を受けるためには、2つの主要破断試験をパスする必要があります。25%絞りで荷重した場合と、75%絞りで荷重した場合の2つの試験です。25%絞りの試験は、理想的でない不完全なセッティングを表し、75%絞りの試験は、より望ましい強固なセッティングを表しています。下記の式は、試験を行う際の適切なセッティング幅の計算に用いられているものです。Bminはカムを絞り切った時の幅、Bmaxはカムを全く引いていない状態の幅を表しています。

図1: CE試験での25% / 75%絞り時のセッティング幅 / EN12276

注:CE規格に適合するためには、カムレンジが5㎜以下の場合、25%/75%絞りではなく50%絞りで試験をする必要があります。Z4の#0がこれに該当します。

bmaxとbminの差が5㎜以下の場合、下記の式で示される1種類のセッティング幅のみが試験に適用されます。

図2:CE試験での、最大レンジ5㎜以下のカムセッティング幅

強度低下率(%)

25%絞りと75%絞り時の強度の差を示す「強度低下率」は、以下の式で算出されます。

図3:強度低下率(%)の算出式

強度

製品に表記されている強度は、試験条件下でその製品が耐えられる荷重の値で、製造者が表示します。CE規格に則って定められた強度の最小値は5kNです。カムのスリング部にある表記を見てみると、そこには2種類の強度が示されているはずです。一つは、アクティブ強度(カミング作用が働くようにセットされた場合)、もう一つはパッシブ強度(ナッツ/ストッパーのように使われた場合)です。BD社製のカムは、2軸構造のカムのみパッシブ強度が記載されています。

図4:カムスリングに記載されている、アクティブ状態(左)とパッシブ状態(右)での強度表示

カムの強度が8kNと表記されていても、必ずしも8kNで破断するという意味ではありません。強度は、3シグマ法というやり方で計算し決定されます。統計的に意味のある数量の母集団で試験を行い、中央値(µ)と標準偏差(σ)を求めれば、3σ区間の下限値が算出できます。このことはつまり、破断するケースのうち99.7%は、この下限値を超える荷重のときに発生する、ということを意味しています。これをベースにして、正式な強度を決定します。製品が使用される様々な状況を考慮に入れ、最終的な強度はこれより低い値になることが多くなります。

下限値 = µ - 3×σ

強度を決定する際、3σ区間の下限値を求める計算式
図5:C4シリーズ・Z4シリーズのカムにおける、サイズと強度との関係(横軸:カムサイズ / 縦軸:強度(kN))

カムサイズの分類

この記事では、カムをサイズで小・中・大に分類しました。具体的な分け方は以下の通りです。

  1. 小 ― Z4の#0~#0.4
  2. 中 ― Z4の#0.5~C4の#2
  3. 大 ― C4の#3~#8

試験

どのサイズのカムを決めるにしても、できる限りベストな状態で決められるようにすべきです。しかし現実にはそれができないこともあります。岩の形状は様々で、そのピッチに持っていけるカムの数は限られています。何もないよりは何かあった方がまし、という場合もあります。さて、極小カムと極大カムを使う場合、このようなイレギュラーなセッティングは、カムの強度にどれくらい影響するのでしょうか?

これまでのQCラボの試験と同様、サンプル数は少なく、かなり理想的な環境で試験していることを念頭に置いておいて下さい。セッティングする際には正確に幅を計り、カムのぶれを最小限に抑えられるよう鋼板を使っています。

単純化するため、2種類のやり方に絞って試験することにしました。

試験1:CE規格試験

- CE規格に沿った試験。Z4の#0やC4の#7・#8だけでなく、様々な中間レンジのカムについても試験を行いました。

  1. 25%絞りと75%絞りの状態を比較し、強度低下率を見るため。そして…
  2. 小さいサイズから大きなサイズまでを、CE規格の枠組み内で同列に比較できるようにするためです。

試験2:規格外非対称試験

- C4の大サイズカムのみでの規格外非対称試験

- 実際のフィールドでの使用に近いセッティングを行い、その条件での限界点を見るため

試験1

CE規格試験 – 結果

キャメロット#1 – 強度14kN – 50%絞りの状態での試験 – 15.5kNで破断

下表は、CE規格に則って実施した試験の結果です(煩雑にならないよう、結果を記載していないカムサイズもあります)。

カム 強度 (kN) 25%絞り時の平均最大荷重(kN) 50%絞り時の平均最大荷重(kN) 75%絞り時の平均最大荷重(kN) 強度低下率
Z4 #0 5 5.45* 6.58 8.98* na
Z4 #0.5 10 13.30 13.01* 12.78 4%
Z4# 0.75 10 14.67 14.19* 14.96 -2%
C4 #1 12 14.47 15.31* 14.35 1%
C4 #2 12 14.42 15.41* 18.43 -22%
C4 #3 12 13.81 15.10* 18.18 -24%
C4 #7 8 11.70 14.06* 16.44 -29%
C4 #8 5 8.73 13.03* 12.26 -29%
表1:Z4・C4の様々なカムサイズでの試験結果概要。CE規格プロトコルに則って試験。
*CE規格試験では必要とされていませんが、表を完全なものにするために追加しました。

CE規格試験 – 分析

表1の結果から、以下のようなことが言えます。

  1. 全体的にカムの破断強度は(喜ばしいことに)通常想定される状況でかかる荷重よりも高い値だった。つまり、うまく決めたカムは、ランナウトからの墜落にも問題なく耐えられることになる。
  2. 中サイズのカムでは、75%絞り時と25%絞り時との強度差は無視できるほど小さい。

    1. Z4の#0.5・#0.75とC4の#1では、2種類の試験結果にほとんど差がない。
    2. これらのサイズのカムローブは、安定したセッティングをしやすい。また、カムレンジが十分に広いため、セット後にカムローブがひとりでに動いても不安定な状態になったり反転したりすることがない。
    3. このサイズのカムは、他サイズに比べセッティングミスに対して寛容で、少々であれば不完全なセットでも対応できる。
  3. ただし、カムのサイズが大きくなるほど、2種類の試験間の強度低下率は増大する。

    1. 中サイズのカムでは、25%絞りの状態だと岩との接点はあまり大きくない。そのため、75%絞りのときに比べると、より小さい荷重で破断してしまう。
    2. 極大カムの場合、絞りが少ない状態ではカムローブが不安定になり変形しやすいため、強度の低下が起きる。
  4. Z4 #0の場合はカムレンジが狭いため、50%絞り状態でのみ試験をするということになっている(CE規格試験)。そのため当然ながら、強度低下率を計算することはできない。25%絞りでの試験を行わないということはつまり、絞りが少ない状態でのセットはかなり繊細であり、できるだけ精確で安定したセッティング技術が求められる、ということである。
変形するキャメロットC4 #7のカムローブ - 75%絞りの状態での試験

CE規格試験 - 破断のパターン

カム 強度 (kN) 25%絞りの平均最大荷重(kN) 50%絞りの平均最大荷重(kN) 75%絞りの平均最大荷重(kN)
Z4 #0 5 カムローブ反転 カムローブ反転 カムローブ反転
Z4 #0.5 10 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断
Z4# 0.75 10 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断
C4 #1 12 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断
C4 #2 12 カムローブ破断 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断
C4 #3 12 カムローブ破断 サムループ内ケーブル破断 サムループ内ケーブル破断
C4 #7 8 カムローブ変形 カムヘッド全体が破損 カムヘッド全体が破損
C4 #8 5 カムローブ変形 カムヘッド全体が破損 カムヘッド全体が破損
キャメロットZ4 #0 – 50%絞りの状態での試験

カムの破断パターンは条件により様々でした。

  1. Z4 #0はカムレンジがかなり狭く、岩との接地面積は極めて小さい。通常、荷重が増えていくと、カムローブは最初のセット位置から少しずつずれていく。#0の場合、50%絞りの状態から全く絞っていない状態になるまでに必要な移動量は、全カム中最小だ。そのため、すぐに破断してしまう。最も多い破断パターンは、引く方向と逆の向きにカムローブが回転してカムが抜けてしまう、というものである。
  2. しっかりセットされたハンドサイズのカムの場合は、サムループ内のケーブル破損が最も多い破断パターンだった。
  3. 中サイズのカムの中には、岩との接点が十分にない25%絞りの状態のとき、荷重を増やすとカムローブ内のアルミ部分が破断したものがあった。
  4. 理想的なセッティング状態の極大カム#7・#8の場合、アクスルが曲がり、カムローブが破損ないしは変形する。一方、25%絞りのときは、必ずカムローブが変形して破断する。カムがウォーキングしたり、セッティングがうまくいっていないと、これはさらに起こりやすくなる。
変形するキャメロットC4 #8のカムローブ - 25%絞りの状態での試験

CE規格試験 – 結論

大サイズのカムを少しだけ絞った状態でセットすると、カムローブの変形が起こりやすくなり、強度は著しく低下してしまいます。同様に、極小カムをあまり絞らずにセットした場合も、カムローブが逆回転しやすくなり、強度がかなり落ちてしまいます。両者の破断パターンは全く異なるものの、広がった状態でのセッティングが脆弱なのはどちらも同じです。

100%絞った状態のカムは強度が落ちる — ウソ?ホント?

余談になりますが、カムは100%絞りに近くなればなるほど強度が増す、ということに触れておくべきでしょう。目一杯引かれたカムは強度が弱くなる、と誰かが言っているのを聞いたことがあります。この状態を「オーバーカム」という人もいます。しかし、これは間違いです。100%絞った状態に近づくほど、カムの強度は上がるのです。100%絞りの欠点は、カムや岩を傷つけずにカムを回収することが、不可能ではないがかなり難しい、という点です。

試験2:

規格外非対称試験

BD社で新製品を開発するときは、安全性を確かめるために、CE規格試験以外にも様々な試験を考案し実施しています。このような試験によって、フィールドで起こりうる誤った使用方法が引き起こす問題を理解しやすくなるのです。この中の一つに、カムのステムの向きと荷重する方向とをずらして何が起きるかを見る、という試験があります。ここまで紹介してきた試験は、そのようなことが起きない理想的な環境・セッティングで行われたものでした。

それでは、極大カムがステムの方向と別方向から荷重されると、その強度はどうなるのでしょうか?

試験・第2ラウンドでは、大サイズ以上のC4キャメロット(#5、#6、#7、#8)を、垂直方向から30度傾けた状態でセットし、50%絞り、かつ、左右のカムローブの引きが非対称になるようにしました。大抵の場合、墜落が起きると、カムは荷重された方向に自然に向きが直ります。しかし、この試験では最悪のケースを想定し、ステムの向きが変わらないようカムが固定された状態で行われました。

規格外非対称試験 – 結果

図6:垂直から30度ずれたセッティングでの破断強度の試験結果

規格外非対称試験 - 結果分析

ここまでの試験で、カムサイズが大きいほど不安定さが増すということは既に分かっています。以下は、非対称の状態で荷重した大サイズC4はどのように強度が減少するのかをまとめたものです。

  1. カムをこのような方向にセットすると、カムローブはさらに変形して曲がりやすくなる。

    1. この試験では、カムが何%絞られているかが、強度の変化に大きな影響を与える。絞りが大きいほど、カムの安定性は増し、高い負荷に耐えられるようになる。今回の試験は50%絞りの状態で行った。これは最悪のケースではないものの、このような左右非対称のセットをするときは、できればもっと絞った状態でセットするのが理想的である。
  2. C4 #5以降、カムの強度は一定の比率で減少していく。しかも、適切にセットした場合に比べてはるかに低い強度になってしまう。

    1. カムローブのサイズが大きくなると、カムローブにかかるモーメントの力も増大するため、より小さな荷重でも破断してしまう。
    2. 左右非対称状態で負荷がかかることにより、一部のカムローブに余計に大きい荷重がかかってしまうと思われる。4枚のカムローブに均等に荷重されている場合に比べると、ちょっとしたセットの不備でカムローブが変形しやすくなってしまうだろう。

規格外非対称試験 – 結論

引かれる方向とステムの向きが異なっている場合、大サイズカムは小サイズカムに比べ、強度の減少が著しくなりました。大サイズカムをセットするときは、荷重がかかる方向と同じ向きにセットする、それぞれのカムローブがなるべく同程度に引かれている状態でセットする、できるだけ絞る、ということがとても重要です。

控えめに定められる強度

BD社では、CE規格の要件以外についても考慮し、社内で独自に行われる試験結果も十分に加味してそれぞれのカムサイズの強度を定めています。

上記の試験結果を見ると、Z4 #0とC4 #8は5kN以上の荷重に十分耐えられるし、C4 #7も8kN以上の負荷を受けても大丈夫です。しかし実際にカムをセットするとき、なかなか完璧にできるものではないし、慎重にセットしなくてはならないことも多いでしょう。そのため、強度は余裕をもたせた控えめな値に定められ、なるべく最適なセッティングを心がけてもらえるよう促す仕組みになっています。

総括

実際のフィールドでのカムセットは、完璧にできない事の方が多いものです。不完全なセッティングがそこまで問題にならないカムサイズもある一方、問題になるサイズもあります。全てのカムが注意深くセットされるべき、というのが大前提ですが、極小・極大サイズのカムのセットはとりわけ慎重になされるべきでしょう。

十分に絞られ、4枚のカムローブに均等に荷重された状態が、良いカムセットの鍵となります。

図7:BD社のカムの取扱説明書では、危ないセット例を図示して注意喚起を行っています。

大きいサイズのカムは、見た目には強靭で安定性の高い支点に思えるかもしれません。しかし、実際の破断強度はマイクロカムと大差なく、マイクロカムと同じくらい慎重にセットしなくてはなりません。特に、意を決して危険なワイドクラックから抜け出るときなんかはね。

安全なクライミングを。

HG
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