QCラボ:クライミングギアの真の強度

2018.5.9

開ききったカムが実際どのくらいの強度があるのか、今まで考えたことがあるでしょうか?自分で結んで作ったスリングの強度については?そんなの分からない、と諦めないで!今回のQCラボでは、コリン・ポーウィック=KP(BDのクライミングカテゴリーディレクター)とそのスタッフがギアが壊れるまで試してみてその疑問に答えました。この実験結果がどうなったのか?その結果から何を導き出せたのか?どうぞご覧ください。


このQCラボのためにご意見を送ってくれた読者の皆様、ありがとうございます。おかげさまで、とても良いアイディアを得ることができました。中にはくだらないものや、危なっかしいものもありましたが…。今回のQCラボでは、特定のテーマに深く絞って研究するのではなく、質より量重視で実験を行いました。そんなわけで、様々な種類のギアを壊し、大まかな検証を行いました。品質管理部の優秀な技術者と社内の腕利きカメラマンに声をかけ、社内の引張試験機を使って、数時間かけていくつかのギアを破壊したのです。

博士課程の論文ではありませんので、サンプル数は1です。各実験において、一つのデータしか得ていません。私はいつも、これは単なる情報提供であり、議論のネタ程度のものですと注釈を入れています。なのに毎回、数学者や科学者や技術者から、これはサンプル数が少ないので統計的に何の意味もありませんよ、とフィードバックを頂いてしまいます。もちろん承知していますよ。このような方々がクライミングギアに関するきちんとした研究を行いたいのなら、それは大歓迎です。新旧のクライマーにとって有益な情報は、たくさんあればあるほど良いですから。

実験

Images:
Andy Earl

私たちは、基本的なクライミングギアを使って実験を行うことにしました。ストッパー(ナッツ)、ヘキセントリック、カム、スリング、そして、ビレイループです。そして、それらが壊れてしまう引張強度と壊れる箇所を観察しました。クライミングギアの引張強度について調べる場合、実際の岩場であり得る状況で、どのくらいの荷重がかかるのかを考えるべきです。しかし、それを超える荷重がかかることもある、ということも覚えておかなくてはなりません。ペツル社で勤務している友人は、つい最近、実際の世界で起こりうる荷重について素晴らしい記事を書いています。クライミングギアはどのくらいの強度を持っているのか、ないしはどのくらいの強度を持っているべきかを考えるあたって、この記事は価値のある情報を提供してくれています。(参照:『Forces at work in a real fall (実際のフォール時に働く力)』)

ストッパーとヘキセントリックの実験

ストッパーやヘキセントリックは、サイズによって強度が異なります。これは、異なるサイズのケーブルが使われているからだけでなく、ナッツの形が歪んでいるため、どの方向でセットするかによってケーブルの締りがきつくなったり緩くなったりするからです。我々は、どの程度でナッツが壊れるのか時々聞かれるので、実際に壊してみました。ナッツ・ヘキセントリックがしっかりはまる専用の固定器具で頭を固定し、実際の岩場での使用に即して、ケーブルの先にはカラビナを付けました。

#1 ストッパー - 表示強度 2kN

3.3kNで、ナット部分のケーブルが破損。
非常に小さい径のケーブルで、しかも、ナッツの先端の部分ではかなり鋭い角度で曲がっています。ですから、その部分が壊れてしまうのは不思議ではありませんでした。このような極小ナッツは、普通エイドクライミングのみで使われます。エイドクライミングで2kN以上の負荷がかかることは、基本的に無いからです。

#5 ストッパー - 表示強度 6kN

8.3kNで、ナット部分のケーブルが破損。
この場合もナッツ部分のケーブルが切れました。実際の岩場では、このくらいの荷重は頻繁には起こらないはずですが、可能性はゼロではありません。

#11 ストッパー - 表示強度 10kN

11.2kNで、カラビナ側のケーブルが破損。
先ほどのナッツよりもケーブルは太くなり、ナッツ部分での曲がり方もやや緩やかになったため、より曲がり方の急なカラビナ側で破損するようになりました。こちらも、元々示されていた強度よりも大きな荷重での破損でした。通常のクライミング状況下ではほぼ起こり得ないレベルの荷重です。

#4 ヘキセントリック - 表示強度 10kN

11.4kNで、カラビナ側のケーブルが破損。
先ほどのナッツと同様です。

#6 ヘキセントリック - 表示強度 10kN

11.9kNで、カラビナ側のケーブルが破損。
近年発売されているヘキセントリックは、ケーブルが通されています。ですから先ほどのナッツと同じサイズのケーブルが付いているヘキセントリックが、同程度の荷重で破損するのは当たり前と言えば当たり前です。

#6 ヘキセントリック - 6mmの細引きを通したもの

7.4kNで、細引きがヘキセントリックにより切断。
ある一人のエンジニアが、持っているギアの中から細引きを通した古いヘキセントリックを見つけてきました。私がクライミングを始めたころは、ヘキセントリック本体のみを買ったものです。ケーブルも細引きも付いていません。自分で6mmの細引きを別途購入し、それをヘキセントリックに通して、ダブルフィッシャーマンズノットで結ぶ必要があったのです。そのようなヘキセントリックが、現代のケーブル付きのヘキセントリックと、強度の点でどの程度差があるのか比較してみました。とはいえ、彼女のヴィンテージギアを壊したくはありませんでした。そこで新しいヘキセントリックのケーブルを切って、6mmの細引きを通したのです。当然のことながら、結果はケーブル付きのヘキセントリックをはるかに下回りました。ヘキセントリックの細引きを通す穴の淵が、細引きを切断してしまったのです。

ケーブルを通すようになったことで、ヘキセントリックの強度は向上しました。さらに、ケーブルが比較的固い材質であるため、岩にセットしたり外したりするのが容易になり、機能性もかなり向上しました。細引きが付いたヘキセントリックは、ゆでた麺のようにくたっとしているので、セットするにも一苦労なのです。

カムの実験

カムもサイズによって強度が異なります。また、モデルによって強度も壊れ方も異なります。多くの方が、カムの引張強度テストを見たことがないでしょう。なので、私たちは様々な方法で実験を行い、いくつかのカムを壊しました。

#1 キャメロット - 表示強度 14kN - 50%絞った状態

15.5kNで、サムループ内のケーブルが破損。
美しい赤いキャメロットを使って、教科書通りにセットされた状態で実験をしました。通常のクライミング状況下では、このような大きさの荷重がかかることは滅多にありません。仮に、もしこのレベルの荷重が起きているなら、憂慮すべき点は別のところにあるはずです。

なぜ二重になった分厚いスリングがキャメロットに使われているのか、と多くの方が不思議がりますが、これが理由です。これについては、ひとつ前の記事『QC Lab: Reslinging Camalots and C3s (キャメロットとC3のスリングを付け直す)』でお話ししました。二重に分厚く縫われたスリングであることによって荷重が分散され、スリングに挟まれてケーブルが切断されることを防いでいるのです。またケーブルが通常のフォールで捻じれることもありません。このような工夫で強度が保たれているのです。

#1 キャメロットウルトラライト(以下キャメロットUL - 表示強度 12kN - 50%絞った状態)

18kNで、ヘッド付近のピンでケーブルが破損。
キャメロットULは、C4と違う場所が壊れました。キャメロットULは超強力なダイネックスの芯が径の小さいヘッドのピンで折り返す構造になっています。実験ではその折り返し部分が壊れてしまいました。

#1 キャメロット - 表示強度 12kN - 開ききった状態(カムローブの半分が掛かった設定)

15.2kNで、カムローブが破損。
私は25年間クライミングをしてきましたが、一度もカムを開ききった状態でセットしたことはありません。しかし、もしそのようなセットをしていたら…実は、かなり強度は高かったのです。2軸構造のカムは、この状態でもかなり強度が高いだけでなく、より広いカムレンジを持っているのです。

#1 キャメロット - 表示強度 12kN - 開ききった状態(少し多めにカムローブが掛かった設定)

15.4kNで、サムループ内のケーブルが破損。
もう一つ、カムが開ききった状態は同じですがカムローブへの掛かりをわずかに多くして実験を行ってみました。結果、サムループ内のケーブルが切れ、通常と同じ壊れ方になりました。開ききった状態でカムをセットするなら、できるだけカムローブが掛かるようにした方が良さそうです。

スリングの実験 - スチール vs ナイロン vs ダイネックス

ウェビングを結んでスリングとして使っていた時代もありましたが、現在ではソウンスリングが一般的です。素材は通常、ナイロン、または、ダイニーマ/スペクトラ/ダイネックス(全て同じ素材です、念のため)が使われています。私たちは、引張強度、伸長度の違い、壊れ方を確かめるため、いくつかのスリングで引張試験を行いました。また、比較のため「スチールケーブルスリング」を作成してみました。カラビナが先に壊れてしまわないよう、12mmのピン(金属製支点)に掛けて実験しました。

3/16インチ(約5mm)径スチールケーブル 二重に鍛造されたもの - 60cm

27.1kNで、ピンとの接触部分が破損。
重量:154g
後述するスリングとの強度と伸張度の比較のために、この実験を行いました。

18mm ナイロンランナー - ソウンスリング - 60cm - 表示強度 22kN

27.2kNで、ピンとの接触部分が破損。
重量:37g
ナイロンランナーは、スチールケーブルよりはるかに伸張しました。

10mm ダイネックス - ソウンスリング - 60cm - 表示強度 22kN

27.4kNで、ピンとの接触部分が破損。
重量:20g
ダイネックスはスチールと同程度の強度があると言われていますが、今回の実験でそれが裏付けられました。60cmの10mmダイネックス製ソウンスリングは重量19gで、27kN超の荷重で壊れました。約5mm径のスチールケーブルは重量154gで、ほぼ同じくらいの荷重で壊れました。そして60cmの18mmナイロンスリングは重量36gで、こちらもまたほぼ同程度の荷重で壊れました。

重量に対する強度

サンプル 重量 強度
3/16インチ(約5mm)径スチールケーブルループ 154g 27.1kN
18mmナイロンランナー 37g 27.2kN
10mmダイネックスランナー 20g 27.4kN

伸張度

グラフを見ると、スチールケーブルは27kNの荷重で壊れる前にほとんど伸びていない(1インチ程度)ことが分かります。それと比べてダイネックスは、スチールのほぼ4倍伸びており、その後同じくらいの荷重で破損します。そう、ダイネックスはスチールよりも伸張するのです。では、ナイロンを見てみましょう。ナイロンはダイネックスの2倍、つまりスチールの8倍も伸びており、こちらもほとんど同じ荷重で破損します。

場合によって道具を使い分けるべき理由が、これで分かりますね。重量を軽くすることが重要で、スリングに大きな荷重がかかってもいいという場合はダイネックスを使いましょう。重量はさほど重要ではなく、荷重されるエネルギーをより吸収してほしい場合(ボールドなギアセットをする場合など)はナイロンを使いましょう。

スリングの実験 - 疑わしいスリングの場合

18mm 穴の開いたナイロンランナー - ソウンタイプ - 60cm - 表示強度22kN

19.4kNで、穴の開いた箇所で破損。
これは興味深い実験結果です。私たちはこの結果を予想していませんでした。私は、自分の事務所にあるスリングを、何も考えずにぱっと掴んで持って行きました。それが何であって、どこから来たもので、どのように使われてきたのか等々、何も知らずに。引張試験機にそれをセットするとき、小さいけど肉眼で見えるくらいの穴が空いていることに気づきました。だいたい1mmくらいでしょうか。私たちは、それでも問題ない、22kNの荷重には耐えるだろう、と考えていました。ナイロンがスチールやダイネックスに比べてどの程度伸びるか、という点にばかり注目していたのです。そのため、19kN強の荷重で、バンと大きな音を立てて壊れた時、私たちはやや驚きました。引張試験機の近くにいた人たちで、この出来事について議論を行いました。以下、この出来事からの考察です。

  1. KPの事務所にあるものを盲目的に信じてはいけない。
  2. 自分のギアは常にチェックした方がよい。
  3. ほとんど目立たないので気をつける必要がないと思えても、強度や耐久性などに大きな影響を及ぼすことがある。
  4. 実験の前に何か疑わしいものに気づいたら、写真を撮っておくこと。怠惰なことに、私たちはそれをしていませんでした。

18mm ナイロンランナー - 意図的に穴を空けたもの - 縫製型 - 表示強度22kN

16.7kNで、穴を開けた部分で破損。
縫製部分に穴を開けて、先ほどの実験の再現をしようとしました。この穴は先ほどのものよりわずかに大きく、もっと汚く開けたものでした。私たちの意図通り、このスリングは元々の強度に満たない大きさの荷重で破損しました。もう一度言います。自分のギアをチェックしましょう。もしも何か疑わしい点があったら、そのギアは廃棄するのが一番です。

スリングの実験 - 結んだスリング

ソウンスリングは、CE認証基準のため22kNの強度がもとめられます。ですが自分でテープスリングを買って、それを結んでスリングとして使っている人も存在します。それに実際の岩場では、木やチョックストーンにスリングを巻いて敗退するために、スリングを切って結び直すこともあるかもしれません。というわけで、結んだスリングについても実験を行ってみました。

18mm ナイロンランナー 切ってテープ結びで結んだもの

20.1kNで、結び目で破損。
ソウンスリングに比べて低い荷重で破損したことも、結び目で破損したことも、当然のことでしょう。多くの場合結び目が弱点になります。

10mm ダイネックス テープ結びで結んだもの

7.7kNで解けた。
ダイネックス/ダイニーマ/スペクトラを切り売りで購入することはできないのですが、これがその理由です。この素材はとても滑りやすく、結び目を維持していることができないのです。ダイネックスを結んで使ってはいけません。

10mm ダイネックス テープ結びで結んだもの

7.8kNで解けた。
別のサンプルを使って、同じ事が起きるかどうか確認してみました。もう一度言います。ダイネックスを結んで使ってはいけません。

適当な平たいウェビング - テープ結びで結んだもの

13.9kNで破損。
市場には様々なウェビング/テープが出回っています。そしてそれらが十分な強度があるとは限りません。再び私はオフィスの床にあったウェビングを1つぱっと掴んで持ち出しました。私はそれがどこから来たのか、また素材が何なのか知りません。きっとバックパックとか、スキーパンツのベルトとかに使われていたものでしょう。それをテープ結びにして実験したところ、14kNに近い荷重まで耐えてくれました。悪くはありませんが、18mmの結んだナイロンスリングやソウンスリングには全く及びません。クライミング用に見えるテープを何も考えず信用しないようにしてください。

ビレイループの実験

ビレイループはすさまじく頑丈です。初期のQCラボでもビレイループを取り上げたことがあります。(参照『QC Lab: Strength of Worn Belay Loops (使い込んだビレイループの強度)』)

CE認証試験の際、ビレイループ単体のテストは行われず、ハーネス装着状態でビレイループのテストが行われます。この試験をパスするには15kNの荷重に耐えなくてはなりません。

多くのブラックダイヤモンド製のビレイループは、バータックが擦り切れるのを防ぐためウェビングのカバーで覆われています。そのためビレイループの引張試験でまず壊れるのはそのカバーなのです。その様子を見るのはいささか刺激的です。なので、いくつか壊してみようと考えました。

ビレイループ - 表示強度 15kN

サンプル1 - 22.9kNで縫い目部分が破損
サンプル2 - 21.9kNで縫い目部分が破損
まず小さな荷重でカバーがミシミシと音を立て始め、ポンという音とともに壊れます。しかし、ビレイループそのものの強度は、実際の岩場で起こりうるいかなる荷重にも耐えられるものでした。

まとめ

  • 極小ナッツは大きなナッツに比べて弱い。ケーブル部分が破損する。
  • ヘキセントリックに細引きを付けてはいけない。セットしにくい上に、細引きは小さな荷重で切れてしまう。
  • C4はサムループの部分が壊れる。スリングは二重の分厚いものなので、そこが切れてしまうことはない。
  • キャメロットULはヘッド付近のリベットが壊れてしまう。
  • 二軸構造のカムは開ききった状態でセットしても強度は高い。
  • ダイネックスはスチールと同じくらい強度がある。
  • ナイロンはダイネックスよりも伸びる。
  • 小さな穴や切れ目はスリングの強度を弱める。ギアをチェックしよう。
  • 結んだナイロンは使用可能。
  • ダイネックスを結んで使ってはいけない。小さな荷重でも解けてしまう。
  • ウェビングテープが頑丈そうに見えても、そこまでの強度はないかもしれない。
  • ビレイループはとても丈夫。
  • KPの事務所にあるものを信用してはいけない。

安全なクライミングを。

KP
(原文リンク)