GEAR MYTHS(ギアと通説):クイックドローのカラビナは逆向き?同じ向き?

2018.1.10

今回の『ギア神話』は、クイックドローのカラビナの向きについて。2つのカラビナのゲートの向きは、逆向きがいいのだろうか、それとも同じ向きだろうか?もっと気になるのは…これは果たして重要な問題なのだろうか?


逆にすべきか、せざるべきか。それが問題だ。汝らクライマー達よ、ゲートは両方とも同じ向きにすべきだろうか?それとも逆向きだろうか?ああ、これは昔から意見が分かれる議論なのだ。

今回の『ギア神話』では、クイックドローに焦点を当ててみよう。お察しの通り、クイックドローのカラビナの向きについては様々な意見がある。仮にあなたが十分な数のクイックドローを借りて、岩場へ向かったとしよう。そうすると、クイックドローによってカラビナのセット方法が違うことに、“クイックに” 気づくだろう。

いくつかは、この写真のようにゲートが逆向きに。

それ以外は、この写真のように、ゲートが同じ向きに。

これはどういうことなのか?なぜ、カラビナが逆向きになるよう、わざわざ入れ替えるクライマーがいるのだろう?

この答えを突き止めるため、精力的に活動しているプロクライマーたちに話を聞いてみた。彼らがこれまでクリップしたカラビナの数は、きっと数えきれないほどだ。そこでの議論を一旦持ち帰り、クライミングカテゴリ部長のコリン・ポーウィックをつかまえた。カラビナの向きを反対にすることに何か科学的な裏付けや安全上の理由があるのかどうか、疑問を投げかけてみたのだ。

一人目は?BDアスリート(註)の、ジョー “カインドキッド” キンダーだ。

(註:記事作成当時)

キンダーはスポートクライミングの世界で何十年も活躍しているベテランで、コンスタントに5.14dを登る上、アメリカでも指折りの素晴らしいボルトルートをいくつも初登してきた。クイックドローの向きについて聞かれたとき、彼はすでに答える気満々だった。

「僕は逆向きにしてますよ。」彼はその理由を説明してくれた。「単純なことです。同じ種類のクイックドローを友人とシェアする状況になったとき、自分のものと分かるようにして、ごちゃ混ぜにならないようにしたかったんです。カラビナを逆向きにしたら上手くいったので、今もそうしています。これで安全性が下がっているとは思わないし、問題が起こったことは一度もないですね。」

Image:
Tristan Greszko

なるほど。ジョーにはちゃんと考えがあるようだね。

BDアンバサダーである、一流写真家ティム・ケンプルにも、どちらの向きを選んでいるのか聞いてみた。

「逆向きだね。よくわからないけど、いつもそうなってたよ。」と、彼は返事をよこした。

オーケー…ただ1990年頃に彼はジョーと一緒にクライミングを学んでたと思うんだが。他の意見も聞いてみた方がよさそうだ。

では、世界最高のフリーソロイストで、最近スポートクライマーになった人と言えば?そう、正解。アレックス “フリーライダー” オノルドのことだ。ラスベガス近くのボルトルートを日帰りで楽しんだあと、我々はオノルドに詳しく話を聞いてみようとした。

いつものオノルドらしい口調で、彼は簡潔に答えた。

「あまり重要だとは思ってないんです。」

一応、理由も詳しく話してくれた。ほんのちょっとだけだが。

「どちらの方が好みとかはありません。どっち向きになってても気にしないですね。僕のクイックドローのカラビナの向きは、手元に届いた時と全く同じです。もしくは、僕のクライミングパートナー達が変えてそのままになっているか、ですね。」

というわけで、オノルドはあまり気にかけてないようだ。まあ、そりゃそうか。

それでは、BDの誇る最強ビッグウォールカップル、バブシ・ツァンガールとヤコポ・ラルケルはどうだろうか?我々が質問を投げかけたとき、彼らはポータレッジの中だった。エルキャピタンでマジックマッシュルームの第2登を狙う真っ最中だったのだ。

真っ先にヤコポが返信してくれた。

「いつも同じ向きに揃えています。実のところ、なんでそうしているのかは分からないんです。ですが、今までずっとそうやって使ってきました:-) 特に意味はないんです。

ではでは。バレーより」

ご想像のとおり、バブシも同じ考えだ。

Image:
Will Saunders

「私も、クイックドローのカラビナは常に同じ向きにしています。登る方向と逆の方向にゲートが向くようにしています。クライミングを始めた時からこうしてきました。理由はよく分からないんですけど。こうした方が扱いやすいんです」

というわけで、彼ら二人は同じ向き派、あとの二人は逆向き派、残りの一人は…ええと、特に気にしてない、という結果だった。

この非公式アンケートをうまくまとめるためには、プロクライマーという枠から出て、質問する相手を探す必要があるようだ。こんな人に聞いてみるのがいいだろう。365日24時間クライミングのことを考えているというわけではないが、たまに良いルートを登って楽しんでいて、そこまで完登にこだわってはいないような人。そこで我々は、BDアンバサダーのクリス・バーカードの回答に期待した。彼は優れた写真家であり、世界を旅する冒険家でもある。

いつも通り、バーカードの目の付け所は一味違うものだった。

「クイックドローを買うと、カラビナはいつも同じ向きを向いていますよね」と、彼は答えた。「私にとってこれは全く問題ありません。ですが、自分でクイックドローを組み立てたり、アルパインクイックドローを作るときは、いつも逆向きにしています。たぶん、つい癖でそうしてしまうのかな?」

おもしろいことに、バーカードの回答から、調査すべき重要なポイントが浮かび上がった。実際、クイックドローのほとんどは、カラビナが同じ向きを向いた状態で売られているのだろうか?そして、これがさらに重要なのだが、それには何か理由があるのだろうか?

ネットでさらっと調べてみたところ、確かにバーカードの言ったとおりだった。ほとんどのメーカーが、ゲートが同方向を向いた状態でクイックドローを販売していた。だが注目すべきは、カラビナが逆方向を向いた状態でクイックドローを販売しているメーカーも数社ある、ということである。

このあまり知られてない事実は、二重の意味で興味深い。

約10年前、ブラックダイヤモンドは逆向き派だった。つまり、カラビナが互い違いになったクイックドローを販売していたのだ。

では、それから何が変わったのか?

実は、QCラボ(品質管理ラボ)にいる、口が悪くて頭の固いカナダ人が、声を上げて主張したのだ。そう、大正解。クライミングギア界の長老、ミスターQCこと、コリン “KP” ポーウィックのことだ。

もう読者の皆様はお気づきだろうが、KPはあらゆることに一家言を持っている。クライミングギアの至極些末なことを調べるのにものすごい時間をかけるような人物は、世界広しと言えどもなかなかいない。間違いないね。

KPは熱烈な “ゲートは同じ向き” 支持者だ。このことで当時のクライミングカテゴリ部長と議論になったとき、逆向きがどれほどダメかを遠慮なく語ったそうだ。そして、今日までその信条を変えていない。

KPの理屈はこうだ。

「ゲートを同じ向きに揃えるべき理由は2つあるんだ。安全上の理由と、心理的な理由だよ」と、KPは言う。

「まず安全上の理由から。普通、クイックドローの下側のカラビナのゲートが、クライマーが進む方向と逆を向くようにセットするよね?」

そうですね。(編集者注:実際には返事などしていない。なぜなら、KPが話をしているときは黙って聞いているのが一番だからだ。)

「じゃあ、ゲートが同じ向きになっているとしよう。私が右の方へ登ろうと思っていたら、カラビナのゲートが左向きになるようにクイックドローをかける。カラビナの主軸は、私が登ろうとする方向を向いている。私が登っていくと、ロープの引きでクイックドローが少し持ち上がり、クイックドロー上側のカラビナがわずかに回転するんだ。ハンガーボルトを中心に、主軸側へ。仮にそこで私がフォールすると、上側のカラビナの主軸とハンガーボルトとの位置関係は正しい状態で、理想的に墜落荷重がかかるんだ。つまり、カラビナの主軸に沿った向き(=メジャーアクシス)、最も強度が高い向きに荷重されるんだよ」

Image:
Andy Earl

「それでは、ゲートが互い違いの状態で、全く同じことをした場合はどうだろう。もちろん、ハンガーボルトの向きも多少は影響を与えるよ。それはとりあえず置いておいて、同じことが起きた場合、上側のカラビナが回転して持ち上がり、ゲートとノーズの接点がハンガーボルトに引っかかってしまう可能性が出てくるんだ。この状態でフォールすると、ゲートとノーズの接点でハンガーボルトにぶら下がった状態、つまり強度の弱い状態で墜落荷重がかかってしまうかもしれない。さらに最悪の場合、フォールしたはずみでクイックドローがボルトから外れてしまうこともあり得るんだ」

Images:
Andy Earl

安全面に関して、KPの言うことはもっともらしい。だが念のため、社内のクライミングウォールを使って、そのようなシナリオが起こり得るのかテストしてみた。

言うまでもないことが、驚いたことに、カラビナが回転してゲートとハンガーの立ち上がり部分とが並列になると、クイックドローは簡単にボルトから外れてしまった。

この映像を観てほしい。

それでは、KPの言う心理的な理由とは?

「下側のカラビナのゲートを登る方向と逆向きにするよう、みんな教わるでしょう」彼は説明を始めた。

「だからベテランでもビギナーでもこういう風に判断するんだ。右方向に登りたい。クイックドローのゲートの向きは同じ。下のカラビナのゲートは左向き、上のカラビナのゲートも左向き。問題なし」

ああ、でもKPによれば、この感覚がやっかいなところらしい。

「ゲートが互い違いになっていて、同じように右方向へ進むとしよう。下のカラビナのゲートは左向きにすべき。だけどクライマーはクイックドローを見て『えっ、ちょっと待って、どうなってるんだ?』となってしまうんだ。下側のゲートを正しい方向にするには、上側のゲートはどっちを向いていればいいのか、一瞬では分からず混乱してしまうんだよ」

「このような心理的な理由からも、カラビナのゲートは同じ向きに揃えておくべきなんだ」KPは繰り返した。


結論

逆向きカラビナが実際に問題になった話を、KPは聞いたことはない。それでも、我々は安全を期することを推奨する。それに、下側のカラビナの正しい向きがどちらなのか悩み過ぎたせいでパンプして、オンサイトを逃したい人なんていないでしょう?

我々は、ゲートの向きは同じ向きに揃えておくべきだと考えている。KPが10年前に大声で主張したおかげで、BD社はそのようにセットされた状態でクイックドローを販売し始めた。

おっと。ゲートの向きは同じ向きにすべしと正式に結論付ける前に、もう一人、意見を聞いておきたい人物がいるんだ。世界最高のスポートクライマーがどう考えているか、聞かない手はないでしょ?

我々は、BDアスリート、アダム・オンドラにも質問を投げかけた。彼は、リードワールドカップで何度も優勝し、5.14dをオンサイトし、世界で唯一5.15dを登ったクライマーだ。

「ゲートは同じ向きになるようにしています。」と彼は答えた。「付け加えると、“リング”(チェコの砂岩で最も多いプロテクション)にクリップした方が、より安全ですけどね。」

これで、結論は出たようだ。

オンドラがクイックドローのカラビナの向きを揃えているんだから…皆さんもそうするべきだね。

-- BDコンテンツマネージャー クリス・パーカー
(原文リンク)