テクニカルインフォメーション

デイジーチェーンの危険な使い方

2006年時点の情報です

ビッグウォールクライミングでエイダーと組み合わせ、クライマーとプロテクションとの間隔を調節をする目的で作られたデイジーチェーン。最近ではマルチピッチクライミングでのセルフビレイとして使われることが多いようです。セルフビレイのバックアップに用いることは間違いではありませんが、誤った使い方をすると思わぬ事故につながります。

デイジーチェーンの危険な使い方
図1.2つのポケットの縫い目をまたいでクリップすると縫い目が破断したときにカラビナがデイジーチェーンから脱落する。
図2-a.正しいポケットの連結
図2-b.間違ったポケットの連結。縫い目が破断した場合デイジーチェーンがカラビナから脱落する可能性があります。
2つのポケットに1枚のカラビナをクリップしない(図1)
デイジーチェーン全長の引っ張り強度は11kN*~19kNありますが、各ポケットは1.3kN~3kN程度の荷重で縫い目が破断します。図1のように、2つのポケットの縫い目をまたぐ形でカラビナをクリップすると、縫い目が破断したときカラビナがデイジーチェーンから外れるため、もしこのカラビナに体重を預けていたとすると大変危険です。1つのポケットに1枚のカラビナをクリップして荷重すれば、縫い目が破断しても下側のポケットが受け止めてくれます。
*1kN=約100kgf

デイジーチェーンだけでセルフビレイを取らない
ビレイポイントでは必ずメインロープでセルフビレイを取り、デイジーチェーンはバックアップとして使用して下さい。1本のデイジーチェーンだけでぶら下がることは、1本のアンカーだけに全体重を預けることになり大変危険です。懸垂下降などでメインロープを外したときのセルフビレイは複数のアンカーからソウンスリングで取って下さい。1個のプロテクション、1本のアンカーだけに命を預けず、必ずバックアップを取ることがクライミングの鉄則です。

デイジーチェーンをランナーとして使わない
ランナーはUIAA/CENスタンダードである強度22kNをクリアしていなくてはなりません。デイジーチェーンに規格はなく、強度もメーカーによって異なり、そもそも衝撃荷重が加わることを想定して作られていないのでランナーとして使うことは大変危険です。

長さ調節の際には必ずカラビナを用いる(図2)
デイジーチェーンで身体とプロテクションとの間隔を調節するときは、必ず図2-aのようにポケットにカラビナを掛けて行って下さい。図2-bのようにポケットのみで調節すると、縫い目が破断した場合デイジーチェーンがカラビナから完全に脱落する可能性があります。信じられないかもしれませんが、その恐怖のメカニズムを下の写真a~dで解説します。


a.2つめのポケットをロッキングカラビナに直に掛けた例。ベージュ色のテープが縫い目にあたります。わかりやすく説明するために2つめのポケットを使用していますが、3つめ以降でも同じです。


b.大きな荷重などにより2つの縫い目(青い矢印)が破断すると...。


c.ポケットのリング形状が完全にくずれ...


d.デイジーチェーンはカラビナから脱落します。
上述の現象はポケットをカラビナに掛けるときにデイジーチェーンがひねられていれば起こりません。また、静荷重状態で2つ以上の縫い目が破断するケースは希かもしれません。しかし、たった1度のアンラッキーで全てが終わるのです。
この現象はブラックダイヤモンド社のWEBサイトから映像でもご覧になれます(2006年現在)。
http://www.bdel.com/video

このようにデイジーチェーンにはいくつもの危険が潜んでいます。それは、この道具本来の目的である「エイドクライミングでの間隔調節」がビレイアンカーに転用されているからと言えます。もしあなたがセルフビレイのための道具をお探しならば、左の写真のようにソウンスリングを連結した構造のアンカーシステムの使用をお勧めします。