サポート情報

2008
ロープの科学---落下衝撃を考える
(ベアールテクニカルカタログより)
クライマーが墜落すると、その衝撃はビレイヤー、ロープ、プロテクションといったビレイシステム全体が吸収します。その中でも、ロープは大きな役割を担っており、衝撃吸収力の高いロープを使用すれば、クライマーやビレイシステムへの負担を軽減できます。墜落が止まった瞬間にクライマーが受ける力を衝撃荷重(Impact Force)と呼び、この数値は、落下係数やクライマーの体重、プロテクションの取り方、そして確保器具によって変わります。落下衝撃とは何かを考えてみましょう。
最大衝撃荷重
クライミングロープの性能表には必ず最大衝撃荷重(Maximum Impact Force)の数値が記載されています。最大衝撃荷重はロープの性能を比較するときに最も重要なスペックです。最大衝撃荷重の計測はUIAAの規定に基づき、シングルロープの場合80kgの金属製のおもりを用い、ロープが流れないようにアンカーに固定し、全ての衝撃がロープに加わる方法で計測されます。このときの落下係数(落下距離÷ロープの長さ、最大で2)は1.77、ロープにとっては非常に過酷な試験です。この試験における最大衝撃荷重の数値が低いほど、おもり(クライマー)に加わる衝撃が小さいことを表し、衝撃吸収力の高いロープといえます。
最大衝撃荷重は力の単位N(ニュートン)で表されます。1Nは質量1kgの物体に1m/s² の加速度を生じさせる力と定義されています。ニュートンと重量キログラム(kgf、f=重力加速度=9.8m/s²)との関係は下記のようになります。
1kN=1000N=約100kgf
最大衝撃荷重7.2kNのロープで試験と同じ条件の墜落をすると、クライマーには720kgfの力が加わります。12kN(1200kgf)が人体が耐えられる限界とされ、ロープの最大衝撃荷重は12kN未満であることが求められています。
墜落を重ねる毎に最大衝撃荷重は大きくなる、つまりロープの衝撃吸収性能は低下していきます。
ニュートンと重量キログラム
プーリー現象
墜落の際、最終プロテクションには、衝撃荷重とビレイヤーが墜落を止める力の2つの力が一度に加わります。このことをプーリー現象と呼び、その大きさは衝撃荷重のおよそ1.6倍になります。つまり墜落の際、最終プロテクションには特別に大きな力が加わっているのです。
理論上の落下係数と実際の落下係数
落下係数は墜落の激しさを表します。落下係数が大きいほど激しい墜落になり、その数値は落下距離÷繰り出したロープの長さで算出され、クライミングの場合0から2の間になります。理論上では、墜落の激しさは落下距離ではなく落下係数で決まります。なぜなら落下距離が同じならば、繰り出したロープの長さが長いほどロープの衝撃吸収量が大きくなるからです。この理論上の落下係数は、ビレイヤーと最終プロテクションとの間に摩擦がなく、繰り出したロープ全体が均一に衝撃を吸収する場合に成立します。 一方、実際のクライミングでは、複数のプロテクションを取り、ロープは屈曲して流れ、カラビナや岩との摩擦があるので、繰り出したロープ全体で衝撃を均等に吸収することはできません。衝撃荷重は最終プロテクションとその一つ前のプロテクションに最も集中し、ビレイヤーに近づくにつれて減少していきます。現実的には理論上の落下係数と同じ墜落をしても、衝撃荷重はかなり大きくなるのです。
最終プロテクションで起きている事実
理論上の落下係数と実際の落下係数とでは衝撃荷重が異なることを説明しました。ここでは異なる4つの墜落例を挙げて、最終プロテクションにかかる衝撃荷重が、ロープと岩との摩擦や確保器具の種類によって変わることを見てみましょう。 衝撃荷重の数値が低いほどクライマーやビレイシステムへの負担が少ないことを表しています。落下距離はすべて8m、使用したロープの最大衝撃荷重は7.2kNです。
●ケース1
ロープがビレイヤーからクライマーまで真っ直ぐに伸び、岩との摩擦が無い場合
落下距離:8m
繰り出したロープの長さ:11.15m
落下係数:0.71
衝撃荷重: ATCなどの確保器具=5.6kN
オートロックの確保器具=8.85kN
●ケース2
5つのプロテクションを取り、ロープの流れにわずかな屈曲があり、岩との摩擦が無い場合
落下距離:8m
繰り出したロープの長さ:23.15m
落下係数:0.35
衝撃荷重: ATCなどの確保器具=5.1kN
オートロックの確保器具=7.0kN
●ケース3
5つのプロテクションを取り、ロープの流れにわずかな屈曲があり、3箇所で岩との摩擦がある場合
落下距離:8m
繰り出したロープの長さ:23.15m
落下係数:0.35
衝撃荷重: ATCなどの確保器具=6.5kN
オートロックの確保器具=7.5kN
●ケース4
4つのプロテクションを取り、オーバーハングによりロープの流れに大きな屈曲がある場合
落下距離:8m
繰り出したロープの長さ:16.65m
落下係数:0.48
衝撃荷重: ATCなどの確保器具=7.5kN
オートロックの確保器具=8.35kN
ケース1の墜落でわかることは、落下係数が大きくてもロープ全体で衝撃を吸収できれば衝撃荷重は低く抑えることができるということです。
ケース2と3では全く同じ墜落をしても、岩との摩擦の大きい場合の衝撃荷重が30%近く増大しています。
ケース4のようにロープの流れの悪いルートでの墜落は、落下係数が小さいにも関わらずクライマーやロープへのダメージが非常に大きいことがわかります。またこの墜落では、落下衝撃がロープの最大荷重値を超えています。
すべてのケースに言えることは、オートロックタイプの確保器具はそうでない確保器具に比べ衝撃荷重が高い、つまりロープの衝撃吸収量が低くなる傾向にあるということで、最大58%まで衝撃荷重が増大しています。
まとめ
スポーツクライミングにおいて墜落は日常茶飯事ですが、最近は困難なアイス/ミックスルートの登場により、アルパインクライミングでも墜落の可能性は高まりつつあります。墜落のダメージを抑えるためには、衝撃吸収能力の優れたロープを選び、ロープ全体で落下衝撃を吸収できるようなビレイシステムを構築することです。そのために必要な知識をまとめると、

最大衝撃荷重の小さいロープは衝撃吸収性に優れている。
プーリー現象により最終プロテクションには落下衝撃の約1.6倍の力が加わる。
落下衝撃は最終プロテクションとその1つ下のプロテクションに集中するため、墜落の可能性のあるプロテクションは特に慎重にセットする必要がある。
理論上の落下係数は必ずしも実際のクライミングには当てはまらない。一般的には実際の落下係数の方が高くなる。
落下係数が高くてもロープ全体で吸収できれば衝撃荷重を抑えることができる。
同じ墜落をしても岩との摩擦が大きい方が衝撃荷重は高くなる。
ロープの屈曲と岩との摩擦が大きなルートでは衝撃荷重が極端に増大する。
オートロックタイプの確保器具の方が衝撃荷重が大きい。

戻る

ページトップへ